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「#1 ひまわり」風の歳時記

「#1 ひまわり」風の歳時記

子どもの頃から、そうだった。

あの底抜けの明るさが、ときに眩しすぎ、辛くなる時がある。ちょっと気の毒な言い方だが、この花を眺めていると、悩ましかったり、惑ったりしながら、もの思いに耽ることが、たまには、あるのだろうかと思ったりしたものだった。

ひまわり。

7月の誕生花でもある。花言葉が「あなただけを見つめる」と知ったのは、ずっと後のことだが、なるほど、一斉に同じ方向に顔を向けて群れ咲く姿を見ていると、確かに「あなただけを見つめ」ている風情だ。ひまわりにしてみれば、「あなた」、ではなく、「お日さま」を見つめ続けているのだろうけれど、この花をプレゼントするときは、よほど慎重に相手を選ばないとマズイなぁ。花言葉が熱烈なだけに、あらぬ誤解を招きかねない。

ギリシャ神話にこんな話が出てくる。

水の精クリュティエは、太陽の神アポロンに恋をしていた。しかしアポロンは彼女のことを気にもかけてくれない。クリュティエは片思いに胸を焦がしながら、来る日も来る日も太陽の神アポロンが黄金の馬車で東の空から西の空へ駆けていくのを見つめるだけだった。振り向かれない悲しみに耐えながら立ち尽くすクリュティエの足から、やがて根が生え、ひまわりへと姿を変え、いまも太陽をじっと見つめ続けているのだと。

そういえば、もう50年も前になるだろうか。イタリアを代表する名優ソフィア・ローレンとマルチェロ・マストロヤンニといえば、映画「ひまわり」。ヘンリー・マンシーニの甘く切ないテーマ曲にのせ、互いに思い合いながらも戦争によって引き裂かれた夫婦の悲しみを描いた名作だ。

よく知られる一面のひまわり畑のシーンは、ウクライナの首都キーウから南へ500キロほどの農村で撮影されたといわれている。ひまわりはウクライナの国花、国の花でもあり、一昨年の2月、ロシアによる軍事侵攻が始まると、日本国内でも、平和を祈ってこの名画の再上映が相次いだ。

「イタリア兵とロシア兵が埋まっています。ドイツ軍の命令で穴まで掘らされて。ご覧なさい、ひまわりやどの木の下にも麦畑にもイタリア兵やロシアの捕虜が埋まっています」。 

そんな台詞とともに、カメラがひまわり畑を映しだす。戦争の過酷さと、一面に広がるひまわりの黄色とが重なり合って、その明暗の切なさに胸が締め付けられたものだった。

そのウクライナでは、いつ終わるとも知れず、今日も命の奪い合いが続いている。

ひまわりの眩しすぎるほどの明るさ、そして、無心にお日さまを追い続けるひたむきさ。この夏はひまわり畑を歩いてみたくなってきた。あなただけを見つめる、などというトシでもないけれど、日傘を差してたたずむソフィア・ローレンの幻と逢えそうな気もするのだ。

MBCラジオ『風の歳時記』
テーマは四季折々の花や樹、天候、世相、人情、街、時間(今昔)など森羅万象。
鹿児島在住のエッセイスト伊織圭(いおりけい)が独自の目線で描いたストーリーを、MBCアナウンサー美坂理恵の朗読でご紹介します。
金曜朝のちょっと落ち着く時間、ラジオから流れてくるエッセイを聴いて、あなたも癒されてみませんか。

読み手:美坂 理恵/エッセイ:伊織 圭

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