奄美市笠利町出身の建築家、山下保博さんです。
「40年離れているという意味では他者であるし、国内外回っているという意味でも他者の目を持っているので、そのとき奄美は何がいいかなというと、何もないこの感じはまさに奄美で。何もないというよりもこの雄大な自然ですよね。台風の時にはいやになる自然ですけど怖い自然だけど」
奄美市笠利町屋仁出身の山下保博さん(59)。その独創的な建築で国内外の様々な賞を受賞し、世界をまたにかけて活躍する建築家です。3年前から、故郷の笠利町を皮切りに、空き家となっている古い住宅を改修して宿にする「伝泊」という活動を進めています。そのほかにも、奄美の世界自然遺産登録を見据え、今年7月、笠利町に高級宿泊施設、「ビーチフロント・ミジョラ」をオープンさせました。
「本当にこう海がそこまで来て引くとダーっと白い砂浜が現れる」
「ビーチフロント・ミジョラ」は、1棟貸切で全13棟全てが海に面しています。奄美伝統の高倉をモチーフにした屋根。コンクリートのモダンな内装。部屋に入ると、幅4メートル高さ2メートルのガラス窓から映画のスクリーンのように海を一望できます。「禅」をモチーフに、海外からの富裕層などが満足できるようにと細部までこだわり、建築しました。
「安い宿もあればすごく高級版がなければいけない。そのときに奄美はまだ少ないと思ったので、グレードの高くて文化度の高い芸術性を良く分かる人たちに泊まってもらう宿がほしいと思って作りました」
その一方で、山下さんは世界自然遺産登録後の様々なニーズや、スポーツ大会などで笠利町を訪れる子どもたちなどが利用できる、安価な宿ドミトリーハウスもオープンさせました。そして、山下さんがいま、一番充実させようと意欲を見せているのが、笠利町の中心部にある「まーぐん広場」です。
まーぐんとは、奄美の方言で「みんなで一緒に」という意味で、宿泊、レストラン、カフェのほか有料老人ホームとデイサービス、障害者の支援施設などが、併設されています。
「建築家は建物を作るだけではなくて、町のデザインと社会のデザインと僕らは言うんですね。社会のデザインは何かというと、そこにことをおこすまーぐんのように、何かの場を作ってみなさん来てくださいという『こと』を作ること。物も作るけれど『こと』も作る。それが建築家」
「まーぐん広場」の開設から1年、理想の空間に育っていると手ごたえを感じています。
「みんなが一緒に楽しもうね。みんなが一緒に何かを共有しようねという場所がまーぐん広場。子どもたちが勉強したり高校生が集まったり、ばあちゃんがご飯食べにきたり。観光客も今入ってきているので、目指した空間が1年経ってやっとできつつある。『奄美の文化はまーぐん広場を見てくれ』みたいな」
受け継がれてきた奄美の文化とその文化の中で暮らしている人々は、世界に誇れるものだと山下さんは話します。
「自然も宝物だけど集落の人と文化がやっぱり世界に誇るもの。それも何もない感じ。自然と同じで奄美の人にとってはあたりまえすぎるから何それと言うんですけど。奄美の一番の売りは人。子どもがだれでもあいさつする。じいちゃんばあちゃんも気軽に声かける」
「そのまんま何百年が残っていること。時間が止まっている感覚が奄美の一番の姿だと思っている。世界的にもこんな場所はない。時間が止まっていて何百年のものが体験できる」