「あんこもち」60年間書き留めたレシピで作る85歳和菓子職人「客に喜んでもらうことが生き甲斐」
今回は、菓子作りを始めておよそ70年、85歳の菓子職人です。
「手をかけることで、良い商品ができる」
鹿児島市光山で菓子店を営む前田成孝さん、85歳。国道225号沿い、JR指宿枕崎線・坂之上駅の近くに自宅兼店舗があります。
この道70年。まずとりかかったのは、つきたての餅に蒸したさつまいもを混ぜてつくる郷土料理「ねったぼ」です。
Q.素材のこだわりはありますか?
(前田さん)「やっぱり新鮮な芋でないと、いいものができない。常に新鮮な品物を、新しい品物を提供するのが私たちの使命だから」
前田さんをサポートするのは次女の岩下浩子さん。普段は妻の智恵子さんも店に立ちますが、現在、体調を崩して静養中です。この日は、長女と孫も手伝いに駆け付けました。
(前田さん)「(ねったぼを作りながら)これが大変なんだ、くっついて。食べるのは美味しいけど、作るのは大変だ」
造船の仕事をしていた父親の仕事の関係で台湾で生まれた前田さん。終戦後、家族で鹿児島に引き揚げました。砂糖も手に入らない食糧難の時代、たまにしか食べられないお菓子の時間は、なによりの楽しみでした。
中学校を卒業した後、菓子職人になろうと大阪へ向かいます。10年間の修行を経て27歳の時、鹿児島に戻り自分の店を構えました。
(前田さん)「このごろはボケてわからん。作った品物でおかしなものができたら『何でこんなもの作ったのか』と(子どもたちに)怒られる。だから60年前から書き留めたレシピを見直している」
胃がんなど4回の手術を乗り越えて、今は土曜日だけ店を開けて和菓子を作り続けています。手書きのレシピは、前田さんが店とともに歩んできた58年の証しです。
(前田さん)「人様の口の中に入る商売だから、信用が第一だから」
ねったぼ(きなこもち)80円、あんこもち150円、こあら饅頭90円など、商品はおよそ20種類。午前10時の開店と同時になじみの客が訪れます。
(常連客)「(前田さんは)あんこのおまんじゅうとか得意、なんでも上手だけど。おちゃめな職人さんでいい感じ」
(大学生)「おすすめありますか?」
(前田さん)「美人に映してもらってね(笑)ますます美人に。テレビに出るから」
Q.若い人が商品を買いに来てうれしいのでは?
(前田さん)「うん、うれしいよ。また来てね」
接客を担当する次女の浩子さん。SNSで店の情報を発信するなど前田さんを支えます。
(次女・岩下浩子さん)「(父親の)サポートをして、お客にお菓子を提供できる日が1日でも長ければ、一番の親孝行かな」
本職のお菓子作りのかたわら、こんな趣味も…
(前田さん)「これが南九州市(のコンクール)で大賞をとった」
幼いころから絵が好きで50歳から油絵を始めました。これまでに数々のコンクールで入賞。個展を開いたこともあります。
(前田さん)「(絵には)見た目の美しさがある。お菓子も同じ。形のいいお菓子で、いい色合いのお菓子でないと、客はついてこない。(菓子作りは)絵と同じ共通点がある」
お菓子と絵画の二刀流。人に喜んでもらうことが何よりの原動力になっています。
(前田さん)「お世話になった地域の人たちに貢献できることを考えている。店に来て喜んでもらえるような品物を作って提供して、喜んでもらったら、それが私の生き甲斐だ。ありがたいことだと思っている」
食べた人を笑顔にするレシピを求めて。前田さんの菓子作りは続きます。
【前田製菓】
鹿児島市光山2丁目2-1
099−261−6817
(営業)毎週土曜日のみ・午前10時~午後4時