「徳之島をコーヒーアイランド」に 生産者をコロンビア人技師が指導

鹿児島県の徳之島では、今から40年以上前に100本のコーヒーノキが植えられたのをきっかけにコーヒー栽培が始まりましたが、まだ島の新たな産業には至っていません。そうした中、南米コロンビアから技術指導者を招いて本場の栽培方法を学ぶ取り組みが行われました。
「徳之島をコーヒーアイランドに」との目標に向かって奮闘する関係者の思いを取材しました。

「植える時も成長途中でも、葉の色は濃い緑でなければいけない」

コーヒーの本場・コロンビアで栽培指導を行っているシアボッシュ・サデジアン・カラハバリさんです。今月5日から3日間かけて、伊仙町のコーヒー農場およそ20か所を視察し、問題点を洗い出しました。

徳之島では、40年以上前から行われているコーヒー栽培を島の新たな産業にするため、12年前、生産者会が結成されました。

(徳之島コーヒー生産者会 泉延吉副会長)「興味持ってくれる若い世代が、興味持てるような体制作りたいね」

コーヒー栽培で雇用を生み出し、安定した収入を得ようという生産者会の思いに共感したのが、コーヒー飲料大手の味の素AGFです。
2017年に「徳之島コーヒー生産支援プロジェクト」を立ち上げ、苗木や肥料の提供、コーヒーの実の皮をむく機械の導入などの支援を続けています。

今回の視察も支援の一環で、土壌学と植物生理学の学位を持つシアボッシュさんを招待しました。

(コロンビアコーヒー技術師 シアボッシュ・サデジアン・カラハバリさん)「コーヒーへの愛情や学びたいという気持ちをすごく感じた」

味の素AGFなどによりますと、コーヒーの栽培に求められる日照時間、年間降水量、平均気温、いずれも徳之島は必要な条件に当てはまっています。

一方で土壌はpH値6の弱酸性が理想ですが、シアボッシュさんからは、徳之島の土壌はpH値が6.5から7とやや高く、さらに土の中に含まれる窒素が少し不足していることが指摘されました。

シアボッシュさんは生産者に、土壌の改善のため、足りない成分を補う肥料の使用や、コーヒーノキを植える間隔を狭くして本数を増やすことで、収穫量は高められると提案しました。

(コロンビアコーヒー技術師 シアボッシュ・サデジアン・カラハバリさん)「土壌がよく土地もあるので、今後の生産量を考えると、木を植える間隔をもう少し縮めた方がいいと思う」

また、生産者が直面している課題が、生育のばらつきや収穫量の伸び悩みです。コーヒーノキの苗を植えて、実がつくまで成長するにはおよそ3年かかります。
さらに、徳之島コーヒーを商品化し、販売するには、最低でも1トンの収穫が必要とされています。

プロジェクト発足当初は、2022年に1トンの収穫を目指していましたが、経験不足や台風による被害などで1トンを収穫するまでには至っていません。

しかし、今回の視察を企画した味の素AGFは、熱心に指導を受ける生産者の姿を見て、手ごたえを感じています。

(味の素AGF生産統括部 前田由香グループ長)「コロンビアの技師の方が来られて、いろいろご指導いただいた内容をきっちりメモされてる姿とか、皆さんやる気を持ってやっていただけてる姿はすごい嬉しく感じました」

生産者の熱意に動かされ、伊仙町も支援に動いています。今年9月から庁舎で徳之島コーヒーを知ってもらう取り組みを始めました。

(記者)「徳之島コーヒーは、ここ伊仙町役場で試験販売されています。すっきりしているのにコクがあって、おいしいです」

町民や観光客の評判も上々で、1日200杯以上を売り上げた日も。

(町民)
「初めて飲みました。いつも気になってたんですけど、きょう初めて飲んで、すごい美味しいです」
「おいしかった」

(伊仙町経済課 橋口智旭課長)「徳之島は畜産、サトウキビ、バレイショ、野菜、その後果樹ですけど、その一角にしっかりコーヒーという産業が入ってくれるように支援していきたいと考えてます」

さらに、コーヒーの栽培は、島外からUターンしてきた町民の受け皿にもなっています。今年9月にコーヒーノキの苗を200本を植えたばかりの時任かおりさんです。

(徳之島コーヒー生産者会 時任かおりさん)「まずはうまくいってるっていうことを言っていただいたので、ほっとしてます」

大阪で看護師として働いていた時任さん。去年、35年ぶりに島に戻りました。母親の介護生活でフルタイムで働けない時任さん、自分のペースで働けるコーヒー栽培で安定した収入を得られることを期待しています。

(徳之島コーヒー生産者会 時任かおりさん)「今回の研修を通して本当に産業として成り立っていったら面白いなっていうふうに思います」「80代の仲良しのおじさまとか、みんな長生きするって言ってくれていて、それを一緒に飲むのがすごく楽しみです」

若者が島で働けて、Uターン者も食べていける新しい可能性を秘めた徳之島コーヒー生産支援プロジェクト。栽培ノウハウの構築と、生産量向上の課題解決にむけて、関係者の挑戦は続きます。