公布から72年 憲法9条めぐる動き

きょうのテーマは憲法です。あさって3日の文化の日は、日本国憲法が公布されたのを記念して設けられた祝日で、今年で公布から72年となります。
平成の30年間でも、戦争放棄をうたった9条を中心に憲法を巡る様々な動きがありました。
私たちは憲法とどう向き合うのか考えます。


(安倍首相)「戦後日本外交の総決算を行いながら、平和で安定した日本を確固としたものにしてまいります。そして更には、いよいよ皆さんと共に憲法改正に取り組んでいきたい」
9月の自民党総裁選挙で3選を果たした安倍総理は、改めて憲法改正に意欲を示しました。

憲法は昭和22年に施行されて以来、改正を巡る論争がたびたび巻き起こりましたが、その中心となってきたのが戦争の放棄と戦力を持たないことをうたった第9条です。

平和主義の象徴として改正すべきではないという意見と、国際協力など、時代の変化に合わせた改正が必要という意見が長い間対立してきました。


先週、徳之島町に暮らすある男性を訪ねました。幸多勝弘さん(67)。学校事務職員として長年勤めるうちに、奄美に戦跡が多くあることを知り、地域と先の戦争の関わりを子どもたちに伝える活動をおよそ15年続けてきました。
この日、訪れたのは天城中学校です。

(幸多勝弘さん)「今日は疎開船武州丸のことを中心にお話します。疎開って聞いたことありますね。」

終戦前年の1944年9月25日。徳之島の子どもや女性、高齢者ら合わせて152人を乗せ鹿児島に向かっていた武州丸は、十島村中之島沖でアメリカ軍の潜水艦に撃沈され、148人が犠牲になりました。

(幸多さん)「私は武州丸のことで、77名の児童、生徒のことを特に言うんですが、この子たちの夢が絶たれた。今、この子たちが生きていれば、子や孫に囲まれて幸せな次代を迎えていた。そういう夢を全て奪うのが戦争なんです」

幸多さんが暮らす徳之島町には、兵士らを乗せて鹿児島から沖縄に向かう途中、徳之島沖で撃沈された輸送船・富山丸の犠牲者3700人あまりの慰霊碑があります。
これと向かい合うように立つ武州丸の慰霊碑。武州丸が沈められたのは、富山丸撃沈から3ヵ月後のことでした。

(幸多さん)「こちらの人たちは、海は安全ではないことは分っている。しかしそれでも疎開しなくてはならないという。そういう中での悲しい、悲惨な出来事だったんですね」


悲惨な戦争を教訓につくられた憲法9条。
しかし、平成に入ると冷戦後の国際情勢の変化もあり、憲法の条文はそのままに解釈の変更や安全保障に関する法律の制定が行われ、自衛隊の海外派遣も始まりました。

さらに大きな転換となったのが…

いわゆる「安保法」が成立し、同盟国が武力攻撃を受けた場合に日本も一緒に反撃できるという「集団的自衛権」の行使が限定的に可能となりました。
「憲法9条のもとでは行使できない」とする歴代政権の解釈からの変更として大きな議論を呼びました。

(町の声)
「日本を守るためには自衛のために動いたほうがいいと思う。周辺国は(集団的自衛権を)使っている。日本だけ遅れるわけにはいかない」
「中国などが勢力を強めてきていて心配はあるが、日本は戦争をしないと戦後言っているので(戦争には)巻き込まれたくない」

そして現在開かれている臨時国会の所信表明演説で今国会での自民党改憲案の提示に意欲を示した安倍総理。9条については現在の条文を残した上で、新たに自衛隊の存在を明記する項目を付け加える方針を示しています。


自民党で長年、憲法議論に関わり、現在も党の憲法改正推進本部の顧問を務める県選出の元衆議院議員、保岡興治さんは、憲法改正の意義をこう語ります。

(保岡興治さん)「世界が激変していますよね。にも関わらず、全く自分の生き方を磨き続けるという努力を一回もやらなかった。こんな国家はほとんど無いと思います。それは変化に対応できない国家は必ず滅びるからです」
また、9条の改正については。
「自衛隊の明記ですね。これは自衛隊が安倍総理も言っているように、災害出動、国家の防衛という最も基本を命を懸けて守ってくれているわけです。それを憲法ではっきりさせる。これだけでも私は大事な憲法改正になると思っています」


徳之島で起きた戦争の史実を次の世代へつなぐ活動を続けている幸多勝弘さん。悲惨な戦争は二度と繰り返したくない。それが一番の願いです。

(幸多さん)「自衛隊の若い人たちが、自衛でなくして他国に入っていって武器を持つようになってきている。それは、本当に、今高齢化していっている戦争を体験した人たちが望んでいたことなのか。亡くなった人たちの思いって、また来た道に、戦場に子どもたちを送ったりする時代を望んでいるのかを考えると決してそうではないと」

国の安全と国民の命をどう守っていくのか。国会での議論の行方が注目されます。
あさっての文化の日。憲法について少しでも思いを巡らす日にしていただければと思います。