桜島など火山研究43年 京都大学・井口正人教授 あす29日に退職「研究成果を社会に還元」

桜島で火山の研究に取り組んできた京都大学の井口正人教授が、あす29日で大学を退職します。鹿児島の活火山と向き合ってきた43年間を振り返ります。

(京都大学 井口正人教授)「(桜島が)噴火する能力としては、既に大正噴火を起こすだけの能力は備えている」

火山活動研究センター長を務める京都大学の井口正人教授、65歳です。岡山県出身で京都大学を卒業し、1981年、23歳のときに桜島火山観測所に助手として赴任しました。

2012年にセンター長に就任し、2016年には日本火山学会会長などを歴任。桜島をはじめとする県内の火山の観測や研究、防災対策に取り組んできました。

毎朝、鹿児島市内からバスとフェリーを乗り継いで、センターがある桜島へ向かいます。

(井口教授)「最初に桜島を見るので。きょうは全然見えない」

Q.何千回と桜島フェリーに乗ってきたと思うが、何か思うところは?

(井口教授)「あんまりない。まだ後始末が残っているので」

鹿児島に来た43年前、桜島は活発な活動を繰り返していました。今も当時のことを鮮明に覚えています。

(井口教授)「一番活発だったのが昭和58年・59年・60年で、南岳の爆発活動が非常に激しくて、鹿児島で言うところのドカバイが毎日ではないが、よく降っていた。当時に比べると今の桜島は爆発あるが、僕は“やる気なし”っていう言い方をするんだけども」

この40年間に桜島が噴火した回数です。今年は3月27日までに26回噴火していて、2011年の1355回をピークに減少傾向にあります。

しかし、桜島にマグマを供給している姶良カルデラには、死者・行方不明者58人を出した110年前の大正大噴火に匹敵するマグマがたまっていると、井口教授は警鐘を鳴らします。

(井口教授)「いつでも(大噴火を)起こせる状態にあるということ。大正級の大規模噴火があるやなしやという判断をやらないといけないのが観測所のミッション。京都大学は、それに対してちゃんと答えを出さないといけない」

その言葉通り、噴火の前兆となる山体の膨張などを捉えるため、桜島に3つある観測坑道の整備にも取り組みました。

Q.印象に残っている思い出深い出来事は?

(井口教授)「2015年5月29日の口永良部島の噴火。全島避難した噴火で、あれはやっぱり…対応がうまくいかなかった。自分でも失敗したと思っている」

9年前に口永良部島の新岳で発生した爆発的噴火。噴煙の高さは9000メートル以上。噴火警戒レベルは5に引き上げられ、島にいた137人全員が島外に避難しました。

島では、この噴火が起きる前から規模の大きな火山性地震が観測されていました。

(井口教授)「気象庁に対して噴火警戒レベル5を考えてみてはどうかと助言したが、実現しなかった。地元自治体にもちゃんと言うべきだったなと。やっぱり悔いが残る」

Q.そういう思いとか考えは後任に伝えた?

(井口教授)「彼は見ているのでわかってるとは思う。その話はよくするので」

井口教授からバトンを引き継ぐ後任の中道治久准教授です。休日返上で観測や研究に没頭してきた井口教授を間近で見てきました。

(次期センター長 中道治久准教授)「40数年走り切ったなと」

Q.どんなところがすごくて真似したい?

(次期センター長 中道治久准教授)「ちょっと真似できない」

井口教授は今後も鹿児島を拠点に、火山噴火予知連絡会の委員を担当するなど、火山の観測や研究を続けていくということです。

フェリーで話していた「後始末」の真意を問うと…。

(井口教授)「京都大学を退職するだけの話で、研究が終わるわけじゃない。次のステップがある」

Q.今後、どこで何をするんですか?

(井口教授)「それは今の段階では言えません(笑)」

全国の活火山のうち1割にあたる11の火山がある鹿児島。火山とどう向き合い備えていくか。井口教授の研究は続きます。