解剖数は九州2位も解剖医はたった1人 担い手課題 鹿児島県内での法医解剖288件で過去最多

去年、鹿児島県内で行われた法医解剖は、過去最多の288件でした。鹿児島で法医解剖ができる医師は1人しかおらず、担い手不足が課題となっています。

(鹿児島大学大学院・法医学分野 林敬人教授)「できる限り、この人がどうして亡くなったのか、誰かに殺されたんじゃないか、解明したい」

鹿児島大学大学院の林敬人教授です。2019年に教授に着任して以降、県内の法医解剖を1人で行っていて、宮崎からも毎年10件ほど依頼が入ります。

鹿児島大学大学院が行った法医解剖は、おととし223件で過去最多となり、去年はさらに更新し、65件増え288件でした。

解剖までの流れです。事件現場の遺体や、自宅で亡くなった人の死因がわからない場合、警察や海上保安部などが医師立ち合いのもと「検視」を行い、犯罪性がないかどうかを判断します。そして、検視でも死因がわからない場合に法医解剖が行われます。

警察庁や鹿児島大学大学院によりますと、九州で法医解剖ができる医師は福岡は7人、長崎3人、熊本・宮崎は2人、大分・佐賀・鹿児島は1人です。

一方、去年、法医解剖された件数を県別にみると、鹿児島は最も多い福岡の373件に次いで2番目に多い266件。医師一人あたりが行う解剖の件数でみると、鹿児島県の林教授が266人と最も多く、2番目の大分県より100件以上多くなっています。勤務日はほぼ毎日解剖を行っている計算になります。
(福岡373件、佐賀87件、長崎184件、熊本147件、大分156件、宮崎68件)

背景にあるのが、解剖医の担い手不足です。解剖医は、患者を診たり治療することがない、遺体の死因を研究する専門医です。この10年間で鹿児島大学医学部を卒業した1000人あまりのうち、法医分野に進んだ医師はゼロです。

(林教授)「医学部に入学しても法医を選ぶ学生は少ない。本来、臨床医の医者になろうと思って医学部に入る学生が大多数なので」

県警が取り扱った遺体は、去年は2155人。毎年2000人前後で推移していて、県警は「犯罪により亡くなった人の見逃しを防ぐため、司法解剖を依頼するケースは増えている」と話します。

また国は、災害で亡くなった人の身元確認体制の充実を図るため「解剖率20%以上」を掲げていますが、現在、県警が取り扱う遺体のうち、解剖が行われるのは全体の13%ほどです。

林教授は、「国の目標を達成するのには1人では限界がある」としながらも、「死因がわからない人を1人でも多く見ることで、犯罪死や虐待死の見逃しを防ぎたい」と話します。

(林教授)「中には事件性があったり、死因不詳のご遺体が多数ある。少しでも多くの遺体を解剖して死因を究明できればと思っている。国の目標として(解剖率)20%以上を掲げているので、鹿児島県も20%(年間約400件)までは上げたい思いがある」

鹿児島大学大学院では再来年の春、博士課程を修了する学生が1人いて、6年ぶりに法医解剖医が2人体制となる予定です。

鹿児島大学は、法医解剖医の仕事現場を見学してもらうなど、担い手確保に努めたい考えです。