濃厚食感“ツキヒガイ”世界初の養殖へ! 謎の多い生態攻略できるか 挑戦第一歩

ツキヒガイは特徴的な見た目とシャキッとした食感が人気で、鹿児島県の日置市で今、漁の最盛期を迎えています。ツキヒガイの世界初となる養殖に向け、日置市の漁師が第1歩を踏み出しました。

貝柱のシャキッとした食感に、濃厚な味わいの2枚貝・ツキヒガイ。赤褐色と白の特徴的な見た目が、太陽と月に見えることからこう名付けられ、9月から11月にかけ旬を迎えます。

主に西日本で獲れ、日置市の吹上沖などでは、今月から漁が解禁となりました。江口漁港での初日の水揚げはおよそ500キロ。上々の滑り出しです。

「本日とれたて、ツキヒガイ入荷ですよー」

(買い物客)
「毎年食べます。ここに買いに来て」
「湯引きして刺身にしてもおいしいし、バター焼きとかいろいろ」

江口漁協などによりますと、ツキヒガイは2000年代以降、台風の影響などで獲れなくなっていましたが、7年ほど前から本格的に漁が復活しました。県外出荷も年々増えています。

神奈川県出身の佐々祐一さん(47)。長年の夢だった漁師になるため、8年前、日置市に移住しました。経営コンサルタントとして数々の企業に関わってきた経験を生かし、ネットでの販路拡大やイベントを通じ、ツキヒガイのブランド化に取り組んでいます。

全国にファンが増えてきた今、あるプロジェクトが進められています。

(佐々さん)「水産業の構図がガラッと変わるきっかけになると思う」

世界初の“養殖”です。

(佐々さん)「天然の魚は管理されないまま、乱獲され続けているところもある。一方で、養殖の魚はおいしかったり、安定的に供給できてどんどん伸びている時代。そういう環境に向いてないところは取り残されていく」

国の調査によると、2021年度の日本の水産物輸出額3015億円のうち、最も多いのは同じ2枚貝のホタテで639億円。全体の2割を占めています。牛肉の輸出額を上回り、アジアで人気です。

(佐々さん)「事業として、水産の形として成り立たせて、地域を賑わせていくことが報いることと思う」

ただ、養殖技術が確立されたホタテと違い、ツキヒガイはまだその詳しい生態がわかっていません。

謎に包まれたツキヒガイ。現在、かごしま水族館と協力し、生態観察を行っています。

(佐々さん)「めちゃくちゃ難しいと思う。海のことだからと、あきらめるしかなかったが、丁寧にデータ取りながら」

観察を始めて1年あまり。養殖に必要となる貝の赤ちゃん=種苗作りに必要な水温などが分かってきました。

この日行ったのは、養殖に向けた試験場づくり。おもりとなる土のうをつけ、海中に垂らしたロープに、種苗をつけ成長させていく計画です。
水族館や大学の関係者も同乗。これまで誰もしてこなかったツキヒガイの飼育。全てが手探りです。

おもりの土のうを海に投入。作業は順調に見えましたが…

(漁師仲間)「重みでロープが外れたと思う。衝撃で」

固く結んでいたはずのロープ同士の結び目が外れてしまいました。

(佐々さん)「まさかここでというアクシデントだったので、後でリカバリーしないと」

外れていたロープを結びなおし、なんとか修復。今後、種苗を付け、養殖に向けた海中での試験がスタートします。ただ、何年後に収穫できるのかも分かっていません。

(佐々さん)「ツキヒガイの生態を明らかにして、種苗の効率的な生産、人工的な養殖につなげていきたい」「3年から5年でやらないと、みんな持たないだろうな。食べていけない漁師がどんどん出てくる」「頑張るしかない、跳ぶしかない」

大きな挑戦への第一歩が踏み出されたこの日。ツキヒガイの完全養殖へ戦いは続きます。