大崎事件 4回目の再審請求 高裁が請求を棄却 これまでの経緯&即時抗告審の焦点振り返り(MBCニューズナウ 2023年6月5日放送)
殺人罪などで服役した原口アヤ子さん(95)が無実を訴え、再審=裁判のやり直しを求めている大崎事件で、福岡高裁・宮崎支部は5日、裁判のやり直しを認めない決定を出しました。
大崎事件は1979年、大崎町井俣の牛小屋で当時42歳の男性が遺体で見つかったもので、殺人罪などで服役した原口アヤ子さんは一貫して無実を訴えています。
1995年から始まった原口さんの再審請求は今回が4回目で、弁護団は新しい証拠として救命救急医の医学鑑定などを提出し、「殺害されたとされる時間に、男性は自転車事故が原因で死亡していた」などと主張。しかし鹿児島地裁は去年6月、「窒息死とする確定判決に疑いは生じない」などとして再審を認めませんでした。
これを不服とした弁護団が即時抗告し、高裁が審理していましたが、5日の決定で福岡高裁・宮崎支部は、弁護団が提出した「殺人ではなく事故死」とする新たな証拠について、『有罪判決を覆すに足りる証拠ではない』として地裁決定を支持し、裁判のやり直しを認めない決定を出しました。弁護団は特別抗告する方針です。
(弁護団 鴨志田祐美事務局長)「今回の高裁決定こそ取り消さなければ著しく正義に反する決定だということを当然主張する」
5日の決定について福岡高検の小橋常和次席検事は「裁判所が適切な判断をされたものといえる」とコメントしています。鹿児島県警は「本件についてお答えする立場ではございません」とコメントしています。
■大崎事件第4次再審請求 これまでの経緯&5日の動き
これまでに3回再審開始決定が出ていながら、いずれものちに覆される異例の展開をたどってきた大崎事件。事件をめぐるこれまでの経緯ときょう5日の動きです。
大崎事件では、原口アヤ子さんら親族4人が男性を殺害し、遺体を牛小屋の堆肥の中に遺棄したとして逮捕されました。
原口さんは捜査段階から一貫して無実を訴えましたが、共犯とされる親族3人の「自白」などを根拠に懲役10年の有罪判決を受け、服役しました。
(原口アヤ子さん)「本当に何もやっていないのに、こんな長く罪を着せられて」
出所後の1995年、67歳の時、鹿児島地裁に1回目の再審請求。
(1985年・録音テープ共犯とされた男性)「(Q.あなた自身はしてない?)やってないんですよ自分は。一歩も家から出なかったその晩は」
弁護団は、「共犯者」とされる親族3人には知的障害があり、「自白に信用性はない」としたうえで、「殺人ではなく事故死」だと主張。
そして、2002年、鹿児島地裁は裁判のやり直しを認める決定を出しました。
(原口アヤ子)「どんなにうれしいことか」
しかし、鹿児島地検が不服を申し立てる抗告を行い、裁判のやり直しは高裁で取り消され、最高裁も請求を棄却。2回目の再審請求では、地裁、高裁、最高裁といずれも再審を認めませんでした。
そして、2015年の3回目の再審請求では、地裁、高裁ともに「殺人ではなく事故死」などとする弁護団の主張を支持。しかし、最高裁は「死亡時期が分からず事故死とまではいえない」として請求を棄却しました。
4回目となる今回の再審請求で弁護団は「殺害されたとされる時間には、自転車事故で死亡していた」とする医学鑑定などの新証拠を提出しましたが…。
「不当決定」
鹿児島地裁は「窒息死とする確定判決に疑いは生じない」などとして弁護団の主張を退けました。
弁護団は「地裁の決定は誤り」として即時抗告。そして、きょう6月5日、地裁に続き、高裁も裁判のやり直しを認めませんでした。
(アヤ子さんの長女・京子さん)「本当に残念で残念でなりません。司法を変えてほしい。母も頑張っている。母は死ぬまで頑張ると言っている」
(弁護団 鴨志田祐美事務局長)「疑わしいときは被告人の利益にという概念を、今の刑事裁判官は忘れているのではないか」
入院先の病院で原口さんに直接結果を伝えた支援者は…。
(原口アヤ子さんの再審をめざす会支援者 武田佐俊さん)「まさかこういう結果になるというのは、想像だにしなかった」
これまでに3度認められたものの、再審開始への道は、閉ざされたままです。
■大崎事件第4次請求 福岡高裁・宮崎支部「請求棄却」 即時抗告審の焦点振り返り スタジオ記者解説
(キャスター)大崎事件、5日の決定のポイントをあらためて解説してください。
(記者)
はい。確定判決で男性は死亡する前、酒に酔って自転車ごと道路脇の溝に転落し、近くの住民2人に救助され軽トラックの荷台で自宅まで運ばれたとされています。
4回目となった今回の再審請求で弁護団は、医学鑑定と供述鑑定の2つを新たな証拠として提出しました。
まず医学鑑定です。救命救急医によるもので「確定判決で殺害されたとされる時間に、男性はすでに自転車事故が原因で死亡していた」と主張しました。
次に供述鑑定ですが、「救助した2人の『生きていた男性を土間に運び入れた』という供述は、虚偽の可能性が高い」という内容です。
(キャスター)この2つの新証拠を鹿児島地裁は去年どう評価したのでしょう?
(記者)
地裁は医学鑑定について「事故が原因で、呼吸が停止した可能性を否定できない」と、その証明力を認めました。一方、供述鑑定は「有罪となった確定判決の証明力を落とすものとはいえない」とし、結果的に再審を認めませんでした。
(キャスター)続いて、5日の高裁の決定はどうだったのでしょう?
(記者)
高裁は医学鑑定について、限定的ではありますが、地裁と同様に弁護団の主張を認めました。そして供述鑑定についても地裁決定を支持し認めませんでした。そして「新証拠は有罪判決を覆すに足りる証拠ではない」とし、裁判のやり直しを認めませんでした。
5日の高裁の決定を、専門家は次のように話しています。
(鹿児島大学 中島宏教授/刑事訴訟法専門)「疑わしきは被告人の利益にという原則が適用されるべき。非常に問題のある認定だと思う。特別抗告の理由としては十分」
(記者)
5日の高裁の決定文では「新旧全証拠を評価し直す必要性は認められない」という表現もありました。しかし、中島教授は最高裁の判例にてらせば「過去4回の再審請求の全ての証拠を見直し、再審が必要かどうか判断すべきだった」と指摘します。
(鹿児島大学 中島宏教授/刑事訴訟法専門)「裁判所が現在とっている考え方であれば、(再審請求4回分)全ての証拠の総合評価をすべき。合理的な疑いがあるのではないかという考慮が十分されていないのでは」
(キャスター)大崎事件は、これまで3回地裁と高裁で裁判のやり直しが認められています。ただ、いずれも不服とした検察が「抗告」を行って覆されてきました。裁判のやり直しへのハードルはとても高く感じますね。
(記者)
原口さんは2度の脳梗塞と認知症が進み、県内の病院に入院していて来週96歳になります。殺人犯として10年服役した一人の女性が、逮捕当初から一貫して無実を訴え続けているという現実があります。
そして、裁判所がこれまでに3回、再審を認めているにもかかわらず、いまだに裁判のやり直しは行われていません。再審制度のあり方が問われているように感じます。弁護団は最高裁へ特別抗告する方針です。