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国際経済の中の農業

きょうは、貿易自由化などで国際経済の影響を受けた農業です。


今月上旬、伊佐市大口の農場では、牛のお産が始まっていました。
(川原和牛牧場 川原慎一郎社長)「ほっとしました、お産は何回経験しても緊張します」

川原慎一郎さん(59)は、繁殖農家40年のベテランです。国内外での和牛人気を背景に、15年前から牛舎の規模を拡大し、現在、母牛70頭ほどを飼育しています。

(川原さん)「和牛の価値が見直されて、価格的には高く維持されてきたのかなと思う。昭和と比べて平成というのは、農家が前面に出る機会が増えてきて、社会に産業として認められ出した時期だったのかな」


農業が産業として認められた一方で…。

平成は、日本の農業が国際経済の波にさらされた時代でした。輸入自由化を求める国際的な圧力が強まるなか、日本は昭和30年(1955年)にWTO=世界貿易機関の前身であるGATTに加盟。これまで国の補助金などで一定の経営が保証されていた日本の農業は、加盟以降、国際市場の影響を直接受けるようになりました。

平成3年(1991年)の牛肉・オレンジの輸入自由化、平成15年(2003年)のTPP=環太平洋パートナーシップ協定の大筋合意。貿易自由化の嵐の中で、不安を抱える農家もいました。

(肥育農家)「不安が大きくのしかかっている、今後どのように国内市場、輸入の商品がどう動いていくのか不安が大きいです。」


国際経済の中に放り込まれた日本の農業でしたが、農家の不安の声もあり肉牛の税制優遇措置がなされるなど、当初は「守りの姿勢」だったと上級農業経営アドバイザーの増原伸一さんは分析します。

(上級農業経営アドバイザー 増原伸一さん)「生産者側もいきなりグローバル化と言われても対応できるわけがない。(国に)自分たち農業界を守ってくださいね、という”守りのグローバル化”が進んできたのが平成の前半」


一方、平成の後半は、”攻めのグローバル化”を模索した時期だといいます。

海外で日本産の人気が高まっていることを追い風に農林水産物と食品の輸出額は平成25年(2013年)から5年連続で増加。政府は、農林水産物の輸出を成長戦略のひとつとして掲げ、輸出額を来年までに1兆円に増やす目標です。

(三反園知事)「鹿児島の基幹産業である農林水産物を、もっと世界に向けて輸出拡大・販路拡大していくチャンスではないかと捉えている」

県産の農林水産物の輸出額も過去5年間で年々増えました。

昨年度は、全国和牛能力共進会で県勢が日本一となり牛肉の輸出が伸びたことなどから初めて200億円を突破。県は、2025年度の農林水産物の輸出額をおよそ300億円に引き上げる目標です。


国際化と成長の波に乗ろうと、さらなる品質の向上を目指す農家も現れました。
(有機農家 今村君雄さん)「有機農業は雑草との戦い、収穫も草で全然取れなかったことも結構あった」

姶良市で有機野菜を栽培する今村君雄さん(54)です。20代の頃に農薬や化学肥料を使わない「有機農業」を姶良市で最初に始めました。現在、オクラやナス、ピーマンなど年間およそ40品目を栽培しています。

今村さんにとって平成は、有機農業の普及や販路拡大を国内中心に取り組んできた時代でしたが、これからは海外の消費動向にも目を向けていきたいと話します。

(今村さん)「2年後にオリンピックが迫っているが、オリンピックに向けての有機農産物の拡大とか。いま加工品を試行錯誤しながらつくって、たぶん将来的には輸出も頭に中に入れて、やっていく方向で動いている」


世界を目指す上で、課題となるのが、日本の農業が直面する人手不足です。人手を補うため、いま農業の現場で進んでいるのがICT=情報通信技術の活用です。
繁殖農家の川原さんは、農場の規模拡大をはかるなかで人手が足りず、6年前、ある装置を導入しました。

牛の遠隔監視システムで、牛の体に入れた「体温センサー」で出産や発情の時期などを予測します。データは、監視システムから繁殖農家の携帯電話に通知されます。

(川原さん)「牛舎から離れて牛舎の中の様子を確認できる装置が出来たのは画期的だったと思う。それ以前は四六時中、気をつけて牛舎から時間的に遠い距離までは出かけられなかったが、この装置ができてからはある意味、時間にゆとりを持った生活ができるようになった」


ロボットや人工知能などを活用した「スマート農業」は、人工衛星の位置情報を使った無人トラクターなどを導入し、農作業の省力化や効率化を実現するとしています。

国も推進に力を入れていて、来年度予算の概算要求には関連予算50億円が盛り込まれました。
過疎や後継者不足に直面する中山間地の農村では、地産地消や農家の育成など、地域で農業の魅力を高めようとする動きもあります。

そんななか、情報通信技術の普及は、仕事としての農業の魅力アップにつながると期待されています。

(増原さん)「ICTを導入することによって、コストを抑制して利益を上げていく、そうすると手元にお金が残るということになる、そうすると産業として魅力が出てくるので、農業に新しく参入してみようかとか、あるいは実家の農業を継ぎに帰ってみようかとか、そういう話につながる可能性もあるなと思う」

日本の農業にとって平成は、国際的な圧力を経験し、ひとつの産業としての自立を目指した時代ともいえます。
一方で、人口減少が加速するなか、輸出拡大や技術革新などで新たなかたちの模索が始まっています。